会長挨拶

 第9回日本静脈経腸栄養学会中国支部学術集会を、来る12月3日(土)島根県松江市で開催させて頂くことになりました。

 さて、昨今の健康ブームも相まって、私たちの周りには様々な栄養関連の情報が飛び交っています。その多くは良心的で有益な情報なのですが、中には首を傾げたくなるようなものも存在するのも事実です。栄養療法とは、患者さん個人の必要としている栄養素の量や種類を様々な方法で評価し、不足や過料分を、様々な方法で補うことによって、健康な状態に戻し、維持していくものであります。近代医学による科学的、学際的アプローチが求められる反面、「食養生」や「薬食同源」という言葉に表されるように、私たち人類が古より摂取してきた食べ物を中心とした経験的アプローチもあることから、これが混沌を招いている原因のひとつかも知れません。ただ、決してそれを否定するわけではなく、経験に裏打ちされる真実にも、実証的なものと同等の価値はあると考えています。
 今回の学術集会では、「リヤカーマン」としても知られ、おそらく人類史上最も長距離を歩いた人であろう、出雲市出身の冒険家永瀬忠志氏を特別講演にお招きして、過酷な冒険の中で食物、水分摂取環境の変化、それに伴い永瀬氏の身体に現れる変化など、まさに経験に裏付けられた真実を語って頂きます。病気や怪我というストレスと戦う患者さんを栄養面から支える私たち医療職にとって有用なお話が伺えるものと期待しています。
 また、ランチョンセミナーの講師として、我が国の栄養療法のパイオニアで、とくに胃瘻に関しては豊富なご経験をお持ちの丸山道生(みちお)先生をお招きしております。胃瘻については、マスコミによって偏向報道ともいえるネガティブな側面が強調されていますが、先生の近著である「愛する人を生かしたければ胃瘻を造りなさい」の内容も含め、胃瘻栄養が栄養療法にとっていかに重要なものであるか等、興味深いお話が伺えるものと思います。
 会場の松江市も含む島根県出雲地方は、神話の宝庫としても有名ですが、かの古事記にも記された「因幡の白兎」の寓話により、日本における医学発祥の地としても知られています。
 私たち日本静脈経腸栄養学会員に課せられた使命のひとつは、科学的見地から栄養療法における「金科玉条」を見出し、実践し、伝えていくことでありますが、皮を剥がれた哀れな兎に、塩水に浸かり風に当たるとよい、と嘘の情報(治療)を教えた八十神たちの様に、私たちは誤った情報を発信してはいないか?自分の出した情報や、行っている治療が反って患者さんを苦しめてはいないか?常に問っていきたいものです。臨床栄養に関する学会として世界最大級になった本学会の次なるテーマ、質の向上にも繋がる学術集会にしたいと考えておりますので、エリアの皆様方には奮ってご参加を頂きます様お願い申し上げます。
 会期の12月は、冬の入口でまだ雪も多くなく、会場の松江市には比較的ストレスなくお越し頂けると思います。また山陰の冬の味覚の王者、松葉ガニをはじめ、寒ブリや島根和牛など美味しいものがたくさん皆様をお待ちしております。学術集会の後は、観光、グルメ等、冬の島根を存分に満喫して頂けましたら幸いです。
 最後に、本学術集会を通じて、兎を助けた大国主命にあやかり、栄養療法、そして病気や怪我と戦う患者さんたちにとって、有益な知見が一つでも多く得られますことを祈念いたしまして、学術集会開催のご挨拶とさせて頂きます。

第9回日本静脈経腸栄養学会中国支部学術集会
会長 大谷 順
(雲南市立病院 院長)